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2006年04月03日
猪瀬直樹 インタビュー
改革は道路から農業へ
道路公団民営化で、改革の先頭に立つ作家、猪瀬直樹氏だが、近著では、土建国家・日本の雇用構造を転換し、
地方経済を活性化させるカギとして農業の可能性に着目する。
また、江戸時代の農民が備えていた経営観を提示し、「売る」農業への回帰を説く。
作家
猪瀬直樹
いのせなおき
プロフィール
1946年長野県生まれ。「ミカドの肖像」で大宅壮一ノンフィクション賞。
「日本国の研究」で特殊法人の実態を描き、
02年道路関係4公団民営化推進委員会委員に就任。
委員会での攻防を「道路の権力」に著した。
近著「ゼロ成長の富国論」では人口減少・労働意欲減退・財政赤字に対する処方箋として農業の重要性を説く。
政府税制調査会委員。東大客員教授。
――猪瀬さんと言えば、道路公団民営化のイメージが強いのですが、近著「ゼロ成長の富国論」(文藝春秋)では、
日本の将来に向けての農業の役割が強調されています。
猪瀬●
道路公団の民営化問題で、これまで色々と議論を重ね、高速道路の建設費を20兆円から10兆円ぐらいに絞ったんですね。
道路が「必要」とされる際、道があると本当に便利な場合と、「仕事としての道路工事が欲しい」場合があります。
この違いをよく見極めて、国民経済の観点から不必要な道路計画を削っていくことが大切なんだけど、
実際に建設費を半減させると、10兆円分困る人が出てくる。
彼らの雇用対策を考えなくてはならないんです。
――建設業を中核とした日本の雇用構造に問題があるということですか。
猪瀬●
著書にも書きましたが、日本の建設業は約600万人の雇用を抱えています。
全就業人口が約6400万人ですから、10人に1人が建設関係の仕事をしているわけで、これはどう見ても歪んだ構造です。
建設総投資額はバブル期までは年間84兆円もありましたが、今では50兆円にまで下がっています。
総投資額が3分の2に減ったのですから、200万人の雇用が過剰ということです。
建設業は長い間、地方の基幹産業であり続けましたが、農業も本来そうでしょう。
だったら、建設業で余った労働力を農業に移すことを考えてもいい。
建設業から農業への雇用移転は、地方経済を活性化させるカギだと思います。
建設業者は大型の立派な重機を所有していますし、その扱いにも慣れています。
すでに一部の業者が農業に活路を見出そうとしていますが、こうした動きを広げることで、地方で余った労働力を農業が吸収できる。
他方、農業サイドでは、後継者不足や遊休農地の拡大が言われ続けていますよね。
荒廃した農地に産業廃棄物が投棄されるといった問題もあります。
私は郊外に住んでいるんだけど、近所の遊休農地に冷蔵庫やオートバイを捨てていく人までいる。
きちんと耕されている所ではそんなことはありません。
やっぱり土地が荒れると、人間心理まで悪い方に誘われるんですよ。
――建設業に限らず、企業が農業に参入するケースが色々と見られるようになりました。
猪瀬●
先の国会で、農地のリース方式を構造改革特区から全国に拡大するための法案が成立しました。
これにより、株式会社が農地を借りられることになり、異業種は農業に参入しやすくなりました。
今後は荒廃した農地があれば、半ば強制的な措置もとれます。
企業が農業に入ってくれば、例えばリサイクルの大きなシステムを作ることもできます。
外食産業やホテルから出てくる大量の残飯をどう有効利用するかといったことも、企業が農業に関与していれば、
解決する仕組みを作れるかもしれません。
――道路公団改革では「抵抗勢力」の存在に頭を悩まされたことと思います。
農業をめぐっては農林族議員に抵抗の動きはないのでしょうか。
猪瀬●
農水省までが舵を切った以上、この流れはもう止められないでしょう。
自民党の農林族議員も抵抗勢力になるのではなく、風向きを呼んで態度を変えつつあります。
もともと、族議員という人たちは明確な根拠をもって政治活動をしているわけではありません。
目の前の金と票が欲しいだけですから、流れや風向きには敏感なんですよ。
――となりますと、農業に新しい時代が来るということですか。
猪瀬●私は今、起きていることは「第二の農地解放」だと見ています。
戦後自作農の時代が一回りして、新しい農業の時代がやってくる。
背景にはFTA(自由貿易協定)を推進する政府の方針がありますし、その先にあるのは東アジア共同体です。
今、日本と中国、韓国は色々な点で対立しているけど、お互いの利益を考えれば、東アジア共同体はやはり必要です。
その前提としては、まずアジア各国と二国間のFTAを詰めないといけないし、そのためには弱い農業を抱えているわけにはいかない。
問題はこうした動きがこのまま進むのか、中途半端に終わるかですね。
大きなトレンドは変わらないでしょうが、緒についたばかりだし、具体的な成果はまだ上がっていませんから。
農業は、自在に絵が描けるフロンティア
――著書の中では、江戸時代からの産業史を振り返りつつ農業を従来とは別の角度から位置付けている点が印象的でした。
猪瀬●
歴史教科書を読むと、
「農民は凶作や飢饉に苦しみ、重い年貢負担にあえぐ」
といった「貧農史観」が書かれています。
あれは、マルクス主義と皇国史観という2つのイデオロギーが形成した固定観念で、
士農工商の身分制度にしても後世に作られたイメージにすぎません。
江戸時代、大阪のコメ相場では、すでに世界初の先物取引が行われていました。
これは世界的に見てすごいことで、平和だから可能だったんです。
異民族に土地を奪われる恐れがない時代だからこそ、先物を取引できたんですね。
ですから江戸時代の農民は作るだけでなく、「売る」ことを考えていました。
生産から流通、販売までプロセス全体を見て市場経済を生き抜いたんです。
農・工・商に境目などはなくて、田畑を耕しながら、商家に奉公したり、職人に転じたり、小商いをする人もいた。
農民には商工業のセンスや経営努力が求められました。
――農業そのものにまつわる古い見方を変える必要がありそうです。
猪瀬●
現代の「農業」は、工業と対比する概念としての農業ですよね。
私は、江戸時代の農業は工業だったと思っています。
狭い土地からいかに多くの収穫を得て、売れる商品を生み出すかが問われ、田畑には職人的な努力が傾注されてきた。
そうした創意工夫が日本のものづくりの伝統となり、大きなところではトヨタ自動車の「カイゼン」、小さなところでは、東京・大田区の町工場などに見られる「匠の技」まで、連綿と続いているわけですよ。
――日本の農産物についても、商品力を見直し、輸出を視野に入れた取り組みも出てきました。
猪瀬●
日本の農業には今でも、他国に真似のできない高付加価値な農産物を作る力があります。
今はちょっとまだ手始めに輸出しているといった感じだけど、今後はもっと輸出しやすい環境が整うはずです。
現在の輸出額は年間1600億円程度ですが、適切な輸出戦略を立てれば、1兆円も不可能ではない。
農産物だけでなく、人材を海外に送り出すことも考えるべきでしょう。
青年海外協力隊をもう少し違った形で展開するとか、フリーターやニートを活用できないかとか。
日本の若者の力を海外の農業で生かせるのではないかと思うんです。
――最後に農業に携わる人たちへのメッセージをお願いします。
猪瀬●
やはり今後の経営者には、
どう作るかではなく、どう売るかが求められています。
農業はいかようにも絵が描けるフロンティアになったのだから、大切なのは、未来を先取りする発想です。
居酒屋チェーンから農業に参入したワタミファームにせよ、人材派遣のパソナにせよ、色々な入り口が用意されてきたでしょう。
ワタミファームで農業を学び、独立した元OLがいるのですが、若い女性が農業をやる、理屈やイデオロギーではなくて、「それが格好いいんだ」という流れができれば、農業に対する見方も変わると思います。
「ダサいけれども大事な産業」から「格好よくてもうかる産業」へと変えていく。
そんな波を作り出せれば、農業の魅力はさらに強まりますよ。
(構成・秋山基)
投稿者 Eooo!事務局 : 2006年04月03日 17:37