2006年04月03日

高島宏平 インタビュー

おいしさを共有して収益性向上を

スーパーの野菜売り場に〝生産者の顔〟がお仕着せのように貼り付けられる一方で、
生産現場からは「消費者が見えない」といった声を耳にする。
両者の溝を埋めようと農産物流通にインターネットを持ち込み、急成長している企業がオイシックスだ。
生産と消費の距離をいかに越えるか。
差別化のヒントはどこに隠されているのか。
ITベンチャーから食品業界に飛び込んだ高島宏平社長が語った。


オイシックス社長
高島宏平
たかしまこうへい

プロフィール

1973年生まれ。神奈川県出身。
東京大学大学院工学系研究科在籍中に㈲コーヘイを設立し、大学院修了と同時に外資系コンサルティング会社マッキンゼー東京支社入社。
退職後の2000年オイシックスを設立。
自社の安全基準をクリアした食品を、インターネットを通じて宅配するビジネスを急成長させている。
今年度の売上高は28億円の見込み。
http://www.oisix.com

――2000年のオイシックスの立ち上げてから今まで、食の世界をどのように見てきましたか?

高島●食の世界を見回すと、まず食べる人と作る人の距離を感じます。
その距離が遠いがために、ものすごくもったいないことが起きている。

私たちの会社とお取引いただいている農家さんは、有機栽培や特別栽培に取り組み、通常よりも努力や苦労を重ねておられます。
しかし、お客様との距離が遠いと、せっかくの努力も非効率になりかねません。
何に向けて頑張っているのかが問題になるわけです。

例えば味です。
ナスの農家を訪ねると、どなたも「うちのナスは日本一」とおっしゃいますよね。
ただし、隣のナス農家さんのナスを食べたことはありますかと質問すると、
「食べたことがない」。
では、スーパーで買って食べたことは?と聞けば、「ないよ。だって買う必要ないだろ」と言われたりします。
確かに農家なのだから、買って食べる必要はないんですが、その人の「日本一」とは、
そのぐらい強い思いで作っているということなんですよね。

――その「おいしさ」には根拠がないということですか?

高島●根拠がないことが問題ではありません。
むしろ、おいしさを定義する難しさを私は感じています。
果菜や果物なら、甘みや硬さといった基準が比較的はっきりしていますが、葉物となると、農家さんによって目指す味はかなり違います。

私たちは農家さんに集まってもらって、目隠し試食をしてもらったりもしますが、レタスなどは味の評価がバラバラです。
皆さん、おいしいレタスを作ろうと努力しているはずなのに、何がおいしいレタスなのかが曖昧だったりする。

実際、せっかく愛情を込めて一生懸命作っていても、その味がお客様の望む味と一致しないケースは多々見受けられます。
それが非常にもったいないんです。

――作るためにかけた手間とコストが生かされていないのですね?

高島●そうですね。その意味で言いますと、当社には、取り扱っている商品についてお客様からの忌憚のない声が寄せられます。
それぞれの意見はかなり具体的ですので、食品ごとの求められる味は何かが、ある程度わかってきています。

そんな「おいしさの姿」を農家さんと共有したい。
同じ苦労をするなら、そこに向かって苦労をしていただく。
そうすれば、お客様に喜んでいただけますし、我々もありがたいのです。

私は、努力する生産者はもっと収入を得るべきだと考えています。
しかし、おいしいかどうかを決めるのは、私たちの先にいるお客様ですので、農業経営はそこを意識すべきです。

売り上げを拡大するためには、大量に売るか、高く売るか、コストを下げるかですよね。
お客様が望むものを作るという部分を強めれば、もっとたくさん売れるはずだし、
ファンがつけば、我々も高い値段でたくさん購入できます。
生産の努力が収益性につながっていくのです。

――「顧客を見ること」は、従来の農業で最も欠けていた点でもありました。

高島●大事なのは、「おいしさ」は採れた時ではなく、お客様に届く時点で判断されるということです。

私たちのビジネスは通信販売ですが、できるだけ産地で味わえる感動に近い感動を食卓に届けようとしています。
在庫は抱えず、お客様から注文を受けた後、契約農家さんへの連絡、収穫、発送、仕分けと進み、通常、注文から3日から1週間で品物が届くような形をとっていますが、やはり、収穫のタイミングや梱包によってかなり評価が違ってきます。

分かりやすい例は、追熟するタイプの商品ですね。
小売店に出荷する場合は、熟れすぎを避けるために早めに収穫するのでしょうが、通販用には通販用のタイミングがあります。
スーパーや農協への出荷とは異なるタイミング、お届け日に追熟が完成するように収穫してもらうだけで、お客様の満足度がかなり上がってきます。



農家の常識を消費者の視点でとらえ直すこと

――お話を聞いていると、生産と流通の距離をどう乗り越えるかがポイントのようです。

高島●農家の常識が一般消費者の非常識みたいなこと、あるいは、その逆の中に差別化のタネがあり、
ビジネスチャンスがあると感じています。

例えば、最近はさまざまな所で目につくようになりましたが、規格外の曲がったキュウリみたいなもの。
農家さんのところに行きますと、「クズだ」と言われますが、お客様にしてみれば、同じおいしさで安全性も変わらない。
しかも安いのであれば、曲がっていてもかまわないと感じる人が半分以上です。

私たちは規格外の野菜を「ふぞろいな野菜たち」と名付けて販売しています。
これも売り始める時は大変だったんですよ。

小さいジャガイモを「コロコロジャガイモ」という名前で売りますと言っても、農家さんには「絶対に売れない」
「お客さんに怒られるから、やめとけ」と言われました。
ところが、やってみたら売れた。

――生産と消費のギャップを越えようとした時に、商品化のアイデアが生まれるということですね。

高島●当社の人気商品に、生で食べられるトウモロコシがあります。
これは、うちのバイヤーが、ある農家で子供さんが食べているのを見たのが商品化のきっかけでした。
バイヤーが「生で食べるんですか?」と尋ねたら、「生で食べないの?」と聞き返されたそうです。

その農家さんにとっては、「生で食べるのが当たり前」だったのかもしれません。
けれども、多くの都会人にはそんな経験はありません。
生のトウモロコシが持つ甘み、みずみずしく、シャキシャキした食感を知れば、
「えっ?!」とびっくりします。
あれは、ちょっと他では経験できない食感ですから。

こういう常識のズレ、認識の違いを消費者は知りたい。
産地で食べる感動に近い感動を味わいたいわけですよね。
普通に暮らしている東京の人には入手できなくて、地域や品種によっては食べられるもの、あるいは食べ方、
そういうものがヒット商品のタネだと思うんです。

――生で食べるトウモロコシはどのようにして商品化したのですか?

高島●そのトウモロコシは宮崎県の農家さんが作る「味来」という品種でした。
トウモロコシは収穫後、熱を出しますから、予冷の方法をいろいろと考え、その農家さん専用のコールドチェーンを組んで、お客様の食卓に届く当日と翌日までは、生で食べられるようにしました。

そこで感じたのは、直接、議論できる関係の重要性ですね。
生で食べるトウモロコシの商品化は、ものすごく難しくはないんだけど、先行事例があってだれにでもできるというものでもない。
当事者同士が普段とは違うエネルギーを傾け、強い意志をもって知恵を出し合う必要がありました。

今では、「いつから販売するの?」といったメールが次々にやってくる圧倒的に差別化できたキラーアイテムになっています。
農家の常識を一般消費者の目で見直せば、より利益の出る商材を生み出せるのです。


――差別化のタネはもともとそこにあったのだということですね。

高島●普通のことだったんです、その農家さんにしてみれば。
だけど、そんなトウモロコシは都会のスーパーには売ってない。
今では、その産地以外でも同じような商品ができないか、いろいろと実験をしています。

――オイシックスとして、農協や市場、小売店などの既存の農産物流通をどのように意識していますか。

高島●そもそも既存の流通をよく知らないんですよ。
私自身、この仕事を始める前に食品をビジネスとして扱った経験はありませんし、既存の流通を否定しようという発想はありません。

新しいか古いかはあまり問題ではなくて、お客様に喜んでいただけるかだと思います。
既存流通の中に良いものがあれば使う。
なければ、考えて作るという考え方です。

むしろ私たちのような流通業にとっては、よい商品があるかどうかが生命線です。
だからこそ、経営の観点から農業にアプローチしている方々の存在は大切で、多くの農業経営者に成功してもらいたいと願っています。
日本の農業の将来は、そうした人たちが、いかに大きな勢力になれるかどうかに、かかっているのではないかと思うのです。


(構成・秋山基)

投稿者 Eooo!事務局 : 18:02